ビッグ・ブラザーはあなたを視ている
ジョージ・オーウェル『1984』
グローバルな盗聴ネットワーク、エシュロンEchelon
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ウィル・スミスとジーン・ハックマンの映画「エネミー・オブ・アメリカ」(トニー・スコット監督、1998)では、NSA(アメリカ国家安全保障局)が、人工衛星から街の監視カメラまで駆使した盗聴・監視大作戦を行っていました。やはり映画だからエンターティンメントのために大げさに描いていると思っていましたが、さいとうたかお著『ゴルゴ13 神の耳・エシュロン』(2007)にも描かれていて、エシュロンに俄然興味が沸きました。そのマンガのなかでは、強盗に襲われた郵便局の、コンピュータ制御されている監視ビデオにエシュロンがハッキングして、犯人の顔をゴルゴ13の顔にすげ替えるなんて芸当をやってのけていたのです。
「エシュロン(Echelon)」とは、フランス語の「échelon:梯子」からきていて、梯子をかけながらどんどん進軍していくような意味に変化していった、かなりシンボリックな呼び名です。
そして、エシュロン・システムとは、簡単にいえば、アングロサクソン系の国、アメリカ合衆国、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国による、手段を問わずに行う大盗聴システムのこと。そのためにエシュロンでは、情報の要となる全世界の静止衛星がやりとりしている情報すべてを盗聴できるように世界各地の同盟国にパラボラ・アンテナ基地(日本にもあります)を設置しています。
盗聴の目的は、もともと冷戦のためのものでしたが、冷戦が終わると、今度は産業スパイに鞍替えし、アングロサクソン系企業の利益になるような情報の提供をするなど、かなりふざけた組織のようです。ニュージーランドの基地などは、同盟国である日本の外交情報を得たいがために設置されたといわれています。
2001年、アメリカでは、9.11直後の世論の憤りに乗じてパトリオット法を通過させてしまいました。この法律は外国から得た情報は証拠能力がある、とするもので、エシュロンの活動の事実上の援護となったのです。そして、自国民の盗聴は禁止されているので、アメリカで得たアメリカ国民の情報はいったんイギリスに送られ、また戻してもらうという、いわばインフォメーション・ロンダリングという詐術も行っています。
いやらしいことに、これらの基地のパラボラ・アンテナがどの静止衛星を傍受しているかわからないように、パラボラ・アンテナ全体を球形ドームで覆ってもいます。ゴルゴ13は、この点をついて日本にある基地のドームを破壊し、パラボラ・アンテナの向きを日本のマスコミにさらす、という手段をとっていました。ともかく、映画「エネミー・オブ・アメリカ」が決して絵空事ではなかったようです。
フランスやロシアにもエシュロンと似たシステムがありますが、規模の点ではエシュロンにはるかに敵いません。エシュロンは1分間に300万のメッセージを傍受できるらしいのですが、フランスでは1ヶ月に200万といわれています。