Streamline Syndrome
流線形シンドローム
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1920年代後半から1930年代にかけて、アメリカを中心に、「流線形」ブームが起きました。それは、機械や道具の中身はそのままに外装だけを変えるところからはじまったのです。視覚的に速そうに見えて未来的でモダンな感じがしたからです。
そして、「流線形」という形は、スピードとは無縁の日常生活品にまで及んで、ブームが極まっていきました。
そこで、原克『流線形シンドローム』(紀伊國屋書店)に沿って、アメリカの、「流線形」という見た目の形が、考え方にまで及んだ事情を概観してみました。
外観のモダン化からはじまった「流線形」フィーバーも1930年代になると、徐々に冷めはじめ、機能的な形を求めるようになっていきます。これは、建築家ルイス・サリヴァンが唱えた「形は機能に従う」に基づいた教育をしていたバウハウスが、ナチスによって閉校に追い込まれ、多くの関係者がアメリカに逃れて活動したことも影響しています。
そして、「流線形」イメージは、スピードとは無関係の「美しさ」を代表する言説として、女性のボディラインなどを語るようになり、美しい曲線を求めて女性たちは狂奔しました。身体を改造するガードルや、ダイエット思想、健康神話が登場します。
それが、美しい曲線は身体の内部からつくられるという方向に向かい、心身ともに美しい、という発想が、人種のことにまで及ぶのもそれほど時間はかかりませんでした。「流線形」という流行の最初は、流れる川や雨滴、卵の形など、自然のなかでも無生物なものに範を置いていましたが、徐々に運動する生物に中心が移り、「進化論的に美しい」ということが絶対条件のようになってきて、ナチスの人種政策が生まれます。